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町田自然幼稚園I棟

物件名  町田自然幼稚園I棟
所在地 東京都町田市忠生2-7-5
主要用途 幼稚園
発注者 齋藤祐善/学校法人正和学園理事長
公式サイト 町田自然幼稚園正和学園
用途地域 第二種中高層住居専用地域、第二種高度地区、準防火地域
構造 鉄筋コンクリート造
階数 地上1階、地下1階
最高高さ
最高軒高
前面道路 南側6.000m
敷地面積 4692.530m2
建築面積 245.640m2
延床面積 245.160m2
設計期間 2003年11月7日〜2004年11月15日
工事期間 2004年11月16日〜2005年8月31日
担当 中佐昭夫、和田学治
構造設計 草間徳朗/草間構造設計室
設備設計
施工 大倉建築
掲載 『建築知識』 2013/6月号エクスナレッジ
『Kindergartens』 2011/1月出版 Braun Publishing
『architecture for children』 2010/10月出版 ACER
『日経アーキテクチュア』 2009/3/9号 日経BP社
受賞 2006年 GOOD DESIGN賞建築・環境デザイン部門入賞
2009年 日本建築家協会優秀建築選
写真 大竹静市郎

2003年から続けてきた町田自然幼稚園舎の増改築工事、今回は第3期になる。

幼稚園では、(あたりまえのことだが)園児が圧倒的な多数派だ。園児は平均身長が110センチ以下なので、先生だけがその中で数十センチも身長が高くて突出してみえる。身長差だけに着目すればちょっと不思議な光景だ。一般社会では、幼稚園のような身長差の分布を目にすることは少ない。

平均身長110センチ以下の園児達が体感している世界、そこから園舎のつくりかたを再構成して、圧倒的多数派である彼らの身体にちょうどよい空間をつくれないかと考えた。

成人男性の平均身長は170センチ、園児(5才)の平均身長の110センチだから、その比率である0.65を用いると、

・ 大人にとっての天井高さ(建築基準法による)

2100ミリ×0.65 → 約1350ミリ

・ 大人にとっての畳2枚分の広さ

1820ミリ四方×0.65 → 約1200ミリ四方

となる。この「高さ1350ミリ」「広さ1200ミリ四方」を単位空間とし、それを集合させて園舎を構成する。

施主からの要望は、保育室3つ分を傾斜敷地に埋め込むように増築すること。建設費、とくに造成予算が膨らまないように建物を小規模にする必要があった。そこで、平面は「広さ1200ミリ四方」を132コマ並べて、保育室3つ分とトイレの面積をコンパクトに確保した。身体の小さな園児は、大人が思うほど広い室内空間を必要としないし、町田自然幼稚園の場合、緑豊かな1600坪の敷地があるので、「空間の広さ」ならば屋外で十分に体験できる。

天井は「高さ1350ミリ」を2層重ねて、大人にとっては1階分、園児にとっては2階分の高さとした。ロフト状の2階をつくれば空間を立体的に使えるので、保育室内を広く感じるし、昇り降りの変化がある遊び場にもなる。建物の屋上は、園庭からつづくデッキになっていて、夏の水遊び場、秋の運動会ステージ、等々に使用できる。デッキの手摺も高さ1350ミリで、要するに園児にとって1層分となる1350ミリの高さを、室内に2層、屋上に1層、合わせて3層重ねた構成である。各保育室の四隅にはデン(1200ミリ四方ひとコマ分)を設け、デンを囲む壁をそのまま立ち上げて建物全体を支える構造柱に利用した。

空間を2層の高さに分けると、大人と園児の視線高さの違いを利用できる。たとえば保育室間の仕切りをつくる場合、上の層を透明、下の層を不透明にして、大人同士は互いが見えるが、園児同士は見えないようにすることができる。隣の様子を隠してしまう方が園児の気が散らなくてすむから先生は保育をやりやすい。先生同士は互いが見えるほうがコミュニケーションをとりやすく、業務を円滑にすすめることができる。

視線高さを利用して保育室に実用性と開放性をもたせる方法は、増改築の第1期から続けているが、これは最初に施主から提示された保育室の閉鎖性に起因する問題を解決するためのものだった。保育室内で先生は園児に対する絶対的な存在だが、保育室が閉鎖的だと、その絶対性が過度になりすぎる可能性があること/ときどき親がきても、閉鎖空間だとさりげなく様子を伺うことができないこと/外来客に対して園児が積極的に挨拶できるような状況をつくって園児の社交性を促進する必要があること/などである。それらを解決するもっと良い方法はないか、その模索は今も継続している。「園児の身体にちょうどよい空間をつくる」という第3期の主題も、他の問題と同様に、今後も継続して検討してゆくことになると思う。

-中佐昭夫-

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