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埼玉おもちゃ美術館幼稚園
/埼玉おもちゃ美術館

物件名 埼玉おもちゃ美術館幼稚園/埼玉おもちゃ美術館
所在地 埼玉県三郷市彦糸3-1-1/埼玉県吉川市美南3-25-1イオンタウン吉川美南東街区1F
主要用途 幼稚園、美術館、就労支援キッチン、児童発達支援室
発注者 齋藤祐善/学校法人ソーシャルインパクト学園理事長
多田千尋/認定NPO法人芸術と遊び創造協会理事長
前田効多郎/社会福祉法人檸檬会理事長
公式サイト 埼玉おもちゃ美術館幼稚園埼玉おもちゃ美術館
構造 鉄骨造(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)
階数 地上2階(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)
前面道路 北側12.000m、南西側12.000m(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)
敷地面積 5200.052m2(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)
建築面積 708.090m2(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)
延床面積 998.820m2(埼玉おもちゃ美術館幼稚園)/615.610m2(埼玉おもちゃ美術館、トイミュージアムカフェ、レモネードキッズ)
設計期間 2023年5月26日〜2024年11月20日
工事期間 2024年11月21日〜2025年9月5日
担当 中佐昭夫、加藤雅哉
協力 須田牧子
構造設計 三崎洋輔/EQSD
設備設計 ポラスグランテック
内装協力 Tree to Green(埼玉おもちゃ美術館幼稚園、おもちゃ美術館)
本禄建築設計事務所(トイミュージアムカフェ、レモネードキッズ)
施工 ポラスグランテックTree to Green(おもちゃ美術館)
写真 矢野紀行
 

閉園が予定されていた幼稚園の再生リノベーション。

埼玉県三郷市で1973年に入居を開始した「みさと団地」には、賃貸・分譲住宅を合わせて約9000の戸数がある。ピーク時の人口は2.3万人で、これはURが管理する団地の中でも全国第2位の規模だが、近年は高齢化が進んで1.5万人を切るまでに減っていた。

幼稚園はその団地の西角にあり、本来は200人以上の園児を受け入れ可能なつくりになっているが、団地の高齢化で園児が数人まで落ち込んでしまい、近い将来に閉園が予定されていた。それを別の学校法人がM&Aで取得したことから、再生に向けた今回のリノベーション計画が始まった。

再生にあたっては、全国で子供や子育て世代を中心に人気を博している「おもちゃ美術館」の存在が鍵になっていた。おもちゃ美術館を運営するNPO法人理事長(多田千尋氏)が、幼稚園をM&Aで取得した学校法人理事長(齋藤祐善氏)の再生理念に共鳴して、この幼稚園におもちゃ美術館を併設する企画を立ち上げようとしていたからだ。これは前例のない試みであり、実現すれば、人の流れが大きく変わることが想定できた。

高齢化が進む団地の外側に目を向けると、幼稚園がある団地の西角から100m先で計画道路(三郷吉川線)の整備が進み、大規模な造成が行われ、新たな建築物や交通量が増え始めていた。また、幼稚園の30m北には隣の吉川市との行政境となる緑地帯があり、その向こうには子育て世代の人口増加が続く新興住宅地が広がっていた。

これら再生の追い風となる要素を念頭に計画を進める中で、北隣の吉川市にある「JR吉川美南駅」に直結した「イオンタウン吉川美南」に店舗を借りて、幼稚園へのバス送迎拠点をつくる話が持ち上がった。

この話には、そもそもイオンタウンがここに開業した時点で、吉川市からイオンタウンに教育関係のテナント入居を要望していたという経緯が大いに関係している。吉川市は教育大綱の理念をもとにインクルーシブ教育の推進を重要な施策として位置づけているが、実はイオンタウンの開業以来3年間、それに見合ったテナント入居が決まらず、ロータリーに面して最も目立つ場所にある1階店舗が空いたままになっていた。そこに今回バス送迎拠点をつくることは、吉川市の要望にもイオンタウンが置かれた状況にも合致していた。

借りることになったイオンタウン店舗はバス送迎拠点としては広すぎるほどの面積的余裕があったため、おもちゃ美術館の拠点もこちらに追加で併設する方が良いのでは、という話になり、さらにこのタイミングで、関西から関東にかけて多くの保育・福祉施設を運営している社会福祉法人理事長(前田効多郎氏)が再生計画に賛同して合流し、「就労支援キッチン」と「児童発達支援室」を併設することになった。吉川市には以前から、この法人が運営する保育園があり、相互連携を見込めることも状況を後押しした。

このような段階を経て、三郷市と吉川市それぞれにある2拠点をバス送迎でつなぎ、学校法人・NPO法人・社会福祉法人で運営する「子供や子育て世代のためのインクルーシブな居場所づくり」の枠組みが出来上がった。これはもはや「幼稚園の再生」を逸脱しているかもしれないが、逆に言えば、幼稚園という枠組みにとらわれず、子供や子育て世代にとって純粋にどのような居場所が必要なのかを追求した結果とも言える。

工事としてはまず始めに、再生が始まったことが対外的に伝わるように幼稚園のフェンスをつくりなおした。視線の抜けやプライバシーを考慮し、場所によって少しずつ隙間を変えた国産のスギ無垢材を並べ、団地の西角に長さ157mの新たなファサードを構成した。

施工は、プレカット木材を日本で最も多く供給し、埼玉を拠点とした活動に特徴があるポラスが担当することになった。内装として併設されるおもちゃ美術館では木のおもちゃを多く取り扱っており、木材の良さや利用の意義を学ぶ「木育」を重視しているが、ポラスが関わることで、それを外装からも感じられるようにと考えた。

園舎は、遊戯室とエントランスを逆転させたうえで、おもちゃ美術館の内装・耐震補強・防犯対策を実施して、それ以外はほとんど手をつけていない。園庭は、既存フェンスの解体時に出てきた残土を活かして築山をつくる程度に留めた。再生によって運営が軌道に乗ってきたら、徐々にそれ以外を整備してゆく手順を想定している。

なぜ遊戯室とエントランスを逆転させたかと言えば、100m先で整備が進む計画道路から脇道が枝分かれして、この団地の西角に向けて伸びてくる予定があり、遊戯室がその脇道の突き当たりの正面になるためだ。将来、この脇道は団地の外側からの新たなアプローチ動線になる。したがって遊戯室をエントランスとして設え直し、バス停を配置して、フェンスはここだけバスが通り抜けられるようにゲート状に持ち上げている。

次に、イオンタウン店舗の内装工事を実施した。ロータリーに面してエントランスを配置し、奥におもちゃ美術館、両脇に就労支援キッチンと児童発達支援室を併設している。おもちゃ美術館は2拠点の両方にあるが、イオンタウン側が乳児、幼稚園側が幼児を対象としており、両方を合わせて1つの施設という取り扱いになっている。

オープニングレセプションはイオンタウン側のエントランスで開催され、学校法人・NPO法人・社会福祉法人、それぞれの理事長のほか、吉川市長と教育長、イオンタウン社長が参加してテープカットが行われた。その数日後には団地を管理するURからの取材があり、国内では珍しい教育環境を提供する団地再生の取り組みとして「くらしのカレッジ」で紹介された。その後も様々なメディアによる情報公開が続いていて、園児が数人だった園舎には活気が戻り、開業以来ずっと空き店舗だったイオンタウンの一角には賑わいが生まれつつある。運用面で呼び分けるために、三郷市にある幼稚園側は「埼玉おもちゃ美術館幼稚園」、吉川市にあるイオンタウン側は「埼玉おもちゃ美術館」という名称に決まった。

この状況を「幼稚園を取得した学校法人理事長の再生理念に、様々な賛同者が集まって成立した」と書けばシンプルだが、設計に着手して、閉園が予定されていた幼稚園を初めて訪れた時には、それが成立した状況を想像するのはかなり難しかったというのが正直な印象かもしれない。当初から様々なハードルがあり、進める過程で想定外の問題が何度も生じたが、学校法人理事長のブレない再生理念を軸にして地道に設計を組み立ててゆき、賛同者や関係者の方々の尽力でひとつずつクリアしてようやくここまでたどり着いた、というのが実感だ。

教育という側面から人の流れや環境を整えることで、既存の物事への捉え方を更新し、新たな地域社会形成と維持継続を図るのが今回の再生計画だとすると、建築としてはまだ一歩目を踏み出したばかりになる。ただ、できることを少しずつでも実現してゆくことが、その先へ具体的な歩みを進めてゆくための確かな手順なのだという実感も同時に湧いている。

-中佐昭夫-

 

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